韓国判例紹介
韓国における職場内セクハラに対する取扱いの現状
事件番号 大法院2017.12.22宣告2016タ202947判決
韓国では「男女雇用平等と仕事・家庭の両立支援に関する法律」(略して「男女雇用平等法」)という名前の法律があり、同法律において「事業主、上級者(上司)または勤労者は職場内セクシャルハラスメントをしてはならない。」という明文規定をおいて、セクハラを禁止しています(同法12条)。
そして、職場内でセクハラの発生が確認された場合の事業主の取るべき措置を規定し(同法14条)、またセクハラ関連の紛争が発生した場合、その解決において立証責任は事業主が負担する旨の明文もおかれています(同法30条)。
ここで判決要旨を紹介する裁判例は、職場内でセクハラ被害を受けた労働者が会社に対し損害賠償を請求した事案です。韓国に現地法人や支店を有する日本企業にとっても参考になる事案と思われます。
<判示事項>は以下のとおりです。
「[1]事業主が「職場内のセクハラと関連して被害を受けた労働者またはセクハラ被害の発生を主張する労働者」に対し解雇やその他の不利な措置をとった場合、民法第750条の不法行為が成立するか否か(原則的に積極)及び事業主の措置が被害労働者等に対する不利な措置として、違法なものであるか否かの判断基準/被害労働者等に対する不利な措置がセクハラと関連性がないとか、正当な理由があるという点についての証明責任の所在(=事業主)
[2]事業主が「職場内のセクハラに関連して被害を受けた労働者やセクハラ被害の発生を主張する労働者」を助けてあげた同僚労働者に対し不当な内容の不利な措置をすることにより、被害労働者等に精神的苦痛を与えた場合、被害労働者等が事業主に対し民法第750条により不法行為責任を問うことができるか否か(積極)/この場合、事業主が被害労働者等の損害を知っていたり知ることができた場合に限って賠償責任があるか否か(積極)及びこの時予見可能性の有無の判断基準
[3]職場内セクハラ事件に対する調査が進行している場合、調査参与者に秘密漏洩禁止義務があるか否か(積極)及び使用者が調査参与者に上記義務を遵守するようにすべき義務があるか否か(積極)/被用者が故意により他の人にセクハラ等加害行為をした場合、使用者責任の成立要件である「事務執行に関し」に該当すると見るための要件」
<判決要旨>は以下のとおりです。
「[1]男女雇用平等と仕事・家庭の両立支援に関する法律(2017. 11. 28.法律第15109号に改正される前のもの、以下「男女雇用平等法」という。)は、職場内でセクハラが法的に禁止される行為であることを明確にし、事業主に職場内セクハラに関する事前予防義務と事後措置義務を課している。特に事業主は、職場内セクハラと関連して被害を受けた労働者だけでなく、セクハラ発生を主張する労働者にも不利な措置をしてはならず、その違反者は刑事処罰を受けるという明文の規定を置いている。
職場内セクハラが発生した場合、事業主は、被害者を積極的に保護し被害を救済する義務を負担するのに、むしろ不利な措置や待遇をしたりする。このような行為は、被害者が被害に耐えて、問題を隠蔽するようにする副作用を招くばかりでなく、被害者にセクハラを受けたこと以上の更なる精神的苦痛を与える得るものである。上記規定は、職場内セクハラ被害を迅速かつ適正に救済するばかりでなく、職場内セクハラを予防するためのものであり、被害者が職場内セクハラに対し問題を提起したときに二次的被害を心配せずに、事業主が加害者を懲戒するなど適切な措置をとるだろうと信頼するようにする機能を有する。
事業主が職場内セクハラと関連して被害を受けた労働者やセクハラ被害の発生を主張する労働者(以下「被害労働者等」という)に解雇やその他の不利な措置をとった場合には、男女雇用平等法第14条第2項に違反したものとして、民法第750条の不法行為が成立する。しかし、事業主の被害労働者等に対する措置が職場内セクハラ被害やそれと関連する問題提起と無関係であるなら、上記第14条第2項に違反するものではない。また、事業主の措置が職場内セクハラと別途の正当な事由がある場合にも、上記条項違反と見ることはできない。
事業主の措置が被害労働者等に対する不利な措置として、違法なものであるか否かは、不利な措置が職場内セクハラに対する問題提起等と近接した時期にあったか、不利な措置をした経緯と過程、不利な措置をしつつ事業主が掲げた事由が被害労働者等の問題提起以前から存在していたものであるか、被害労働者等の行為による他人の権利・利益侵害の程度と不利な措置により被害労働者等が受けた不利益の程度、不利な措置が従来の慣行や同種事案と比較して異例的または差別的な取扱いか否か、不利な措置に対して被害労働者等が救済申請等をした場合には、その経過等を総合的に考慮して判断しなければならない。
男女雇用平等法は、関連紛争の解決において事業主が証明責任を負担するという規定を設けているが(第30条)、これは職場内セクハラに関する紛争にも適用される。したがって、職場内セクハラによる紛争が発生した場合に被害労働者等に対する不利な措置がセクハラと関連性がないとか正当な事由があるという点については、事業主が証明をしなければならない。
[2] 男女雇用平等と仕事・家庭両立支援に関する法律(2017. 11. 28.法律第15109号に改正される前のもの、以下「男女雇用平等法」という。)第14条第2項は、事業主が職場内セクハラと関連して被害を受けた労働者やセクハラ被害の発生を主張する労働者(以下「被害労働者等」という)に解雇やその他の不利な措置をしてはならないと規定しているだけである。したがって、事業主が被害労働者等ではなく、彼らに助けを与えた同僚労働者に不利な措置をした場合に、男女雇用平等法第14条第2項に直接違反したと見ることは難しい。
しかし、事業主が被害労働者等を近くで助けてあげた同僚労働者に不利な措置をした場合に、その措置の内容が不当でそれによって被害労働者等に精神的苦痛を与えたならば、被害労働者等は、不利な措置の直接の相手方ではないとしても事業主に民法第750条により不法行為責任を問うことができる。
事業主は、職場内セクハラ発生時、男女雇用平等法令により、迅速かつ適切な労働環境改善策を実施し、被害労働者等が後続被害を受けないように、適正な労働条件を造成し、労働者の人格を尊重し、保護する義務がある。それでも事業主が被害労働者等を助けてあげた同僚労働者に不当な懲戒処分等をしたならば、特別な事情がない限り、事業主が被害労働者等に対する保護義務に違反したものと見ることができる。
一方、被害労働者等を助けてあげた同僚労働者に対する懲戒処分等により、被害労働者等に損害が発生した場合、このような損害は特別な事情による損害に該当する。したがって、事業主は民法第763条、第393条により、このような損害を知っていたり、知ることができた場合に限って、損害賠償責任があると見るべきである。この時、予見可能性があるかどうかは、事業主が助けてあげた同僚労働者に対する懲戒処分等をした経緯と動機、被害労働者等がセクハラ被害に対する異議提起や権利の救済を受けるための行為をおこなった時点と事業主が懲戒処分等をした時点との間の近接性、事業主の行為で被害労働者等に発生するものと予見される不利益等、諸所の事情を考慮して判断しなければならない。特に事業主が被害労働者等の権利行使を助けてあげた労働者が誰であるかを知るようになった直後助けてあげた労働者に正当な事由なく差別的に不当な懲戒処分等をする場合には、それにより被害労働者等にも精神的苦痛が発生するだろうという事情を予見することができると見る余地が大きい。
[3]現行男女雇用平等と仕事・家庭の両立支援に関する法律(2017. 11. 28.法律第15109号に改正される前のもの、以下「男女雇用平等法」という。)には、明文の規定がないが、改正男女雇用平等法第14条第7項本文は、職場内セクハラ発生事実を調査したものは、調査内容の報告を受けたものまたはその他に調査過程に参与した者(以下「調査参与者」という。)は、該当調査過程で知るようになった秘密を職場内セクハラと関連して被害を受けた労働者やセクハラ被害の発生を主張する労働者(以下「被害労働者等」という)の意思に反して他のものに漏洩してはならないと定め調査の参与者の秘密漏洩禁止義務を明示している。
上記改正法が施行される前にも、個人の人格権、私生活の秘密と自由を保障する憲法第10条、第17条、職場内セクハラの予防と被害労働者等を保護しようとする男女雇用平等法の立法趣旨と職場内セクハラの特性等に照らして、職場内セクハラ事件に対する調査が進行する場合、調査参与者は、特別な事情がない限り、秘密を厳格に守り公正性を失ってはならない。調査参与者が職場内セクハラ事件を調査していて知るようになった秘密を漏洩したり、加害者と被害者の社会的価値や評価を侵害し得る言動を公然とすることは違法であると見なければならない。このような言動により、被害労働者等に更なる二次被害が発生し得るものであり、これは結局、被害労働者等をして、職場内セクハラを申告すること自体を断念させることとなるため、使用者は調査参与者に上記のような義務を遵守させるようにしなければならない。
一方、民法第756条に規定された使用者責任の要件である「事務執行に関し」とは、被用者の不法行為が外形上、客観的に使用者の事業活動、事務執行行為またはそれと関連するものであると見える場合には、行為者の主観的事情を考慮せずに事務執行に関しおこなった行為と見るということである。被用者が故意で他のものにセクハラ等加害行為をした場合、その行為が被用者の事務執行それ自体ではないとしても、使用者の事業と時間的・場所的に近接して被用者の事務の全部又は一部を遂行する過程で行われたり、加害行為の動機が業務処理と関連するものであるなら、外形的・客観的に使用者の事務執行行為と関連するものであると見て使用者責任が成立する。この時、使用者が危険発生を防止するための措置をとったか否かも損害の公平な負担のために付加的に考慮することができる。」