第1 パワハラ(パワー・ハラスメント)とは
パワハラについては、様々な定義がありますが、厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」によりますと、職場のパワーハラスメントとは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」であるとされています。
第2 パワハラの実態
都道府県労働局及び労働基準監督署に設置されている総合労働相談コーナーに対する民事上の個別労働紛争相談件数は、平成28年度において、約20万件でしたが、そのうち、「いじめ・嫌がらせ」を理由とする相談は、7万917件であり、相談理由の第1位でした。
この数は年々増加しており、その理由としては、単純にパワハラの発生数が増加しているというよりも、労働者の側で、自身が受けている問題がパワハラに該当するという認識を強く持つようになったことが原因の一つと思われます。このように、パワハラを問題視する趨勢は全国的、全世界的に広がっており、これを放置しておくことは、以下のような問題を引き起こすものと考えられます。
第3 パワハラを放置することにより生じる問題
企業側において、パワハラが行われているのを放置したり、それが行われる前に予防の対策をしていなかったりすると、民事上の損害賠償責任が生じる可能性が考えられます。
すなわち、パワハラの加害者がパワハラの被害者に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負う場合において、加害者を雇用している企業側には加害者を雇用していた者としての責任が生じる可能性があります(これを「使用者責任」と言います)。また、使用者責任以外にも、企業側が適切なパワハラ防止策を取らなかったり、すでに発生したパワハラに対して適切に対処しなかったりすると、その企業自体が直接に不法行為責任を負うことになり、または、雇用契約上の安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負う可能性もあります。
第4 パワハラ対策を行うメリット
上で述べた不都合を回避するためには、大きく、①事前の対策と②事後の対策があります。
事前の対策というのは、パワハラが発生するのを予防することであり、実態の把握、マニュアルの作成、従業員の教育等によって職場環境を改善していくことです。
これに対して、事後の対策というのは、パワハラの相談窓口を設けたり、再発防止のために当該パワハラの被害者・加害者に対する適切な処置をすることです。
以上のパワハラ対策は、上でいう損害賠償責任を回避するというメリット以外にも、他のハラスメントの発生を防ぐことにもつながり、また、職場環境の改善は経営上の大きなメリットがあるものと思われます。
企業法務につきましては、以下の項目もご参照ください。