第1 取締役の3つの終任事由
事例 | 株式会社Xの大株主であるAは、X社の唯一の取締役であるBの経営方針に賛同できない。Bを取締役の地位から外すことはできるか? |
取締役がその地位を外れるのは、①任期満了、②辞任、③解任の場合です(他には、取締役の死亡、破産手続き開始等も含まれますが、ここでは触れません)。
そこで、上の事例で、大株主Aが、Bを取締役の地位から外すためにできうる方策を考えてみましょう。
第2 任期満了
まずはじめに考えられるのは、任期満了を待つことです。取締役の任期は、約2年と法律で定められており、これを定款または株主総会決議によって、短くすることは可能ですが、原則として、2年より長くすることはできません。
そこで、2年が過ぎるのを待つというのが一つの手です。
しかしながら、取締役が欠けた場合、任期満了または辞任により退任した取締役は、後任者が選任されるまで、なお取締役の権利義務を有するとされていますので、事例1において、唯一の取締役Bの任期が満了しても、後任取締役が選任されるまでは、Bは取締役の権利義務を有し続けますので、大株主Aの意向には反する結果となってしまいます。
第3 辞任
次に、取締役を説得して辞任してもらうことで、円満に大株主Aの意向を実現することができます。この場合には、次の第4でネックとなる取締役に対する損害賠償を考慮しなくても良いという点でも非常に有利です。
第4 解任
最後に、取締役Bを解任するという方法が考えられます。
取締役の解任は、株主総会決議によることが可能です。この場合、必要な決議は普通決議といわれ、原則として、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、さらに、出席した株主の議決権の過半数が賛成することによって、可決されます。
仮に、大株主Aが、X社株の過半数を持っているならば、解任決議は可決されることになります。これを持っていないならば、委任状争奪戦ともいわれますが、他の株主を説得して、Bの解任に賛成してくれる株主を過半数揃えなければなりません。
ただし、解任決議が否決されても、取締役Bに不正な行為等があったにもかかわらず否決されたのであれば、解任の訴えという手続を裁判所に提起することが法律上は可能となりますが、道は険しいものと言えるでしょう。
次に、無事、取締役Bを解任できた場合でも、任期中に解任された取締役は、解任に正当の理由がある場合を除き、会社に対して、損害賠償請求をすることができるとされています。ここで、解任の正当の理由というのは、取締役が病気で取締役としての職務を継続できないことや経営者としての能力が欠如していること等が考えられますが、事例のように、経営方針に賛同できないということが解任の正当の理由になると考えるのは難しいかもしれません。その場合、取締役Bは損害賠償請求権を持つことになり、X社は任期満了までの間に得られるはずであった取締役報酬に相当する金額を支払う必要が出てきます。
企業法務につきましては、以下の項目もご参照ください。