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相続開始の原因と時期

2 相続開始の原因と時期

 相続人は誰かという話をする前に、まずは、韓国相続法の条文の順序に従って、相続開始の時期と原因について説明します。

 韓国民法では第5編が「相続」であり、その一番初めの条文である997条に、相続開始の原因として、「相続は死亡により開始する」と規定されています。すなわち相続開始の原因は人の死亡であり、相続開始の時期も人の死亡時であるということになります。この条文の意味は2つあります。第一に、相続は自然人にしか認められないということ、第二に、生前相続は認められないということです。

 したがって相続による権利義務承継の効果を主張するには自然人の死亡を主張立証しなければなりません。この主張立証に使われるのが除籍謄本上の死亡の記載です。韓国では現在、戸籍制度がなくなって、家族関係登録簿制度という新しい制度に変わっていますので、家族関係登録簿上の死亡の記載が、当該人の死亡の主張立証に使われることになります。

 「人が死亡した時には、同居の親族が死亡の事実を知った日から1か月以内に、死亡診断書または死体検案書を添付して死亡届出をしなければならない」(韓国家族関係登録法84条1項)ものと規定されており、これにより死亡の記載がなされます。また、この他に、認定死亡の制度もあります。すなわち、「水害、火災その他の災難によって死亡した者がいる場合には、これを調査した官公署は、遅滞なく、死亡地の市・邑・面の長に通報しなければならない。ただし、外国で死亡した時には死亡者の登録基準地の市・邑・面の長に通報しなければならない」(韓国家族関係登録法87条)とされており、この場合死体が発見される場合もあれば発見されない場合もあります。以上のことはいずれも自然的死亡に関する記載となります。

 なお、家族関係登録簿上の記載と異なる事実、たとえば当該人が生存している事実、または記載と異なった日時に死亡した事実が明らかになった場合には、記載の推定力は覆されることになります。ただし、失踪宣告のときのように取消し等の手続を踏む必要はありません。

 次に、失踪宣告があれば失踪期間が満了した時に死亡したものとみなされ(韓国民法28条)、相続が開始します。失踪期間の満了時は、普通失踪の場合は、生死不明が5年間継続した時(韓国民法27条1項)、特別失踪の場合は、危難が終了した後1年間生死不明の時(同条2項)です。特別失踪の場合における死亡とみなされる時期が日本法と韓国法では異なっている点は注意が必要です。日本民法では「その危難が去った時」ですが(日本民法31条)、韓国民法27条2項では「危難が終了した後1年間(生死が)分明でなかった時」です。

 失踪宣告については、裁判所によって失踪宣告が出される時点と失踪宣告期間の満了時点が異なるため、その両時点において相続法の内容が異なるという事態が考えられます。この場合どちらの時点の相続法を適用するか、という問題が生じます。韓国の相続法は制定後何度か重要な改正を経ているので、この問題は時にはかなり切実な問題となる場合があります。考え方としては失踪期間満了時基準説と失踪宣告時基準説の二つがあります。制定民法附則25条2項は失踪宣告時基準説を採用しました。しかし、その後、1977年改正民法附則6項は改正民法施行日後に失踪期間が満了する時には改正相続法を適用するものとして失踪期間満了時基準説を採用しましたが、1990年改正民法附則12条2項は再び失踪宣告時基準説に戻りました(大法院2017.12.22.宣告2017タ360、377判決参照)。

 次に韓国特有の問題である北朝鮮の住民に関連する点に触れておきますと、軍事境界線以北の地域の「残留者」が不在宣告を受けると997条の適用に関しては失踪宣告を受けたものとみなされ(不在宣告特別措置法4条)、相続が開始します。ここでいう「不在者」とは、「家族関係登録簿に軍事境界線以北の地域に居住する者と表示された人をいう」と定義されています(不在宣告特別措置法2条)。

 通常の場合は上記のような資料や制度を利用して当該人の死亡を主張立証し、相続による法的効果(法的効果として具体的には、包括的な権利・義務の承継など)を主張することになります。しかし、万一このような資料や制度が利用できない場合に、それでも死亡の蓋然性が高いという時、裁判所は死亡の認定をしてくれるでしょうか。これに関しては韓国大法院の判例があります。

 それは大法院1989.1.31.宣告87タカ2954判決です。

 その判決によれば、「水難、戦乱、火災その他事変に便乗して他人の不法行為により死亡した場合に法は認定死亡、危難失踪宣告等の制度と普通失踪宣告制度も用意しているが、上記のような資料や制度によらない死亡事実の認定を受訴裁判所が絶対にできないと言う法理はない」とされました。

 要するに、死亡について上記のような資料がなく、失踪宣告制度を利用できる状況にない時にも、諸々の客観的事情に基づき、裁判所が死亡事実を認定して相続の効果を認めてくれることもある、ということだと思います。

 相続開始の時期と原因に関する解説の終わりに同時死亡の推定についてお話しします。2人以上の人が同一の危難によって死亡した場合には同時に死亡したものと推定されます(韓国民法30条)。法文上は「同一の危難により死亡した場合」と規定されていますが、同一の事故や危難で死亡したのでなくても死亡の先後関係が不明であれば同時死亡の推定がされます(30条類推適用説)。同時に死亡したものと推定されると、一方が死亡したときに他方は生存していなかった(権利能力がなかった)ということになりますから、「被相続人が死亡した時、相続人は生存していなければならない」という同時存在の原則からしますと、相続は認められないことになります。したがって同時死亡の推定が及ぶ者同士は互いに相続しないことになります。しかしこれはあくまでも同時死亡の推定が及ぶ者同士の間の相続の問題であって、それらの者についての(つまり、それらの者を被代襲者とする)代襲相続までもが否定されるわけではありません(大法院2001.3.9.宣99タ13157判決)。代襲相続自体についてはのちに解説します。

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