1 はじめに
これから本論考において韓国相続法(便宜上、韓国法のうちの相続に関する法律を「韓国相続法」と呼ぶこととします。)について解説をしていきたいと思います。
第1に、できるだけわかりやすい説明を心がけるつもりです。多少言葉足らずになってもわかりやすさを優先させたいと思います。第2に、日本の相続法との相違点などにも気を配りながら説明をしていきたいと思います。ただし、当然のことながら、メインに論ずるのはあくまでも韓国相続法であり、日本の相続法に対する言及は韓国相続法の理解を助ける程度に留めるつもりです。それではよろしくお付き合いいただければ幸いです。
まず相続とは何かと言う相続の定義の問題から始めますと、これについて韓国相続法の基本書では、「相続は、法律の規定により自然人の財産法上の地位がその死亡後に特定人に包括的に承継されることを意味する。」とか、「相続とは、人が死亡した場合にその財産上の地位(または権利・義務)が法律の規定により他人に包括的に承継されることをいう。」などと定義されています。
これらの定義の中にすでに現れていますように、韓国相続法も日本の相続法と同様、法定相続を採用しています。法定相続とは、簡単に言えば、誰が相続人になるのか、いつ相続が開始するのかなどの相続に関する事柄があらかじめ法律の規定によって定められている制度のことです。韓国も法定相続制を採用しているのです。 なお、これらの相続に関する事柄を遺言によって定めるものを遺言相続といいます。
相続において問題になるのはおおざっぱに言うと、①誰が、②いつ、③どこで、④何を、⑤どのように、相続するのかということです。これらの点が韓国相続法上ではどのように規定されているかを説明するのが本論考の目的です。
①誰が、というのは相続人は誰かという問題であり、②いつ、というのは相続開始の時期と原因の問題です。また、③どこで、は相続の場所の問題であり、④何を、は相続の対象となる権利・義務は何かという問題です。最後に、⑤どのようにというのは、細かくいうと、㋐どのような割合で相続するか、と、㋑どのような方法で相続するか、という2つの問題を含んでいます。
相続法の基本を理解するには以上のような点を理解すれば良いのですが、これが韓国民法、韓国相続法ではどのような内容になっているかということを、本論考において説明することになります。