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相続回復請求権(韓国法と日本法の違い)

相続回復請求権(韓国法と日本法の違い)

第1 相続回復請求権とは

 日本民法も韓国民法も、相続回復請求権について規定しています。
 相続回復請求権というのは、本来は相続人ではない者が、真の相続人の相続権を侵害して、相続不動産を自己名義にしてしまっているとか、相続対象の預金を引き出してしまったとかいう場合に、その回復を求める権利のことを言います。
 さらに、共同相続人の一部の者たちが、他の共同相続人を除外して、自分たちだけで相続財産をほしいままにしているような場合も、除外されてしまった共同相続人は、他の共同相続人たちに対して、相続回復請求権を行使することができます。

第2 相続回復請求権の準拠法

 法の適用に関する通則法36条によりますと、「相続は、被相続人の本国法による。」とされています。そして、相続回復請求権というのは、相続の問題ですから、結局、相続回復請求権の準拠法は、被相続人の死亡当時の国籍の法となります。亡くなった在日韓国人の方の国籍が韓国籍でしたら韓国法、日本国籍でしたら日本法ということになります。

第3 日本法と韓国法の違い

 相続回復請求権には、期間制限が定められていますが、この点について、日本法と韓国法で大きな違いがあります。
 具体的な違いは以下の通りとなります。

開始時期 期間 期間制限の意味
日本法 相続権を侵害された事実を知った時から 5年 時効
相続開始の時から 20年 除斥期間
韓国法 侵害を知った日から 3年 除斥期間
相続権の侵害行為があった日から 10年 除斥期間

 まず、この期間制限によって、相続回復請求権の行使が制限されてしまいますので、これは、真の相続人にとっては非常に不利な制度であり、本来は相続人でない者にとっては非常に有利な制度ということが言えます。
 第1の違いは、開始時期と期間です。開始時期というのは、いつから期間の計算がなされるかということです。
 例えば、被相続人が平成10年1月1日に亡くなり、相続人が2人いたとします。平成14年1月1日に相続人の一人が被相続人名義の不動産の登記を勝手に自己の単独名義にしてしまい、残った相続人がその虚偽の登記に気付いたのが、平成18年1月1日だったとしましょう。
 この場合、日本法・韓国法それぞれの期間がいつから計算され、いつ期間制限で回復請求権が行使できなくなってしまうのかを示しますと以下のようになります。

開始時期 期間の初め 期間の終わり
日本法 相続権を侵害された事実を
知った時から
平成18年1月2日 平成23年1月1日
相続開始の時から 平成10年1月2日 平成30年1月1日
韓国法 侵害を知った日から 平成18年1月2日 平成年21月1日
相続権の侵害行為があった日から 平成14年1月2日 平成24年1月1日

 第2の違いは、期間制限の意味です。これは、期間制限が時効なのか除斥期間なのかということです。除斥期間というのは、時効と違って、聞きなれない言葉だと思いますが、時効と除斥期間の違いを挙げると以下の通りとなります。  

時効 除斥期間
中断がありえるか 中断がありえる 中断しない
援用を要するか 援用を要する 援用を要しない
遡及効はあるか 遡及効がある 遡及効がない

 中断とは、期間の進行中に、請求権者が裁判上の請求をしたり請求を受ける側が請求権があることを認めたりなどすると、それまでに進行した期間はいったんゼロに戻って、一から期間を計算しなおすという制度です。つまり、上の表に記載した通り、日本法における「相続権を侵害された事実を知った時から5年」という期間制限は時効の性質を持ちますので、上の例で言いますと、例えば、不動産を自己名義にした相続人が、平成20年1月1日、自分が相続回復請求権を受ける立場にあることを認めますと、その時点で進行中の期間はいったんゼロに戻り、平成20年1月2日からもう一度数えなおして、5年後の期間満了日は平成25年1月1日となるのです。
   
 また、援用というのは、期間制限によって利益を受ける者(上の例で言いますと、不動産を自己の単独名義にしてしまった相続人です。)が「時効を援用する。」との意思を請求権者に対して表示することによってはじめて時効の効果が生じるということです。除斥期間の場合は、期間が経過すれば、当然に期間制限の効果が生じるのであって、援用を要しません。

 最後に遡及効というのは、時効や除斥期間によって回復請求権が消滅しますが、遡及効がある時効の場合には、回復請求権は期間の初めにさかのぼって初めから権利がなかったのだという考え方をするのに対して、遡及効のない除斥期間の場合には、回復請求権は期間の経過によって消滅したのだという考え方をします。



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