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続・韓国大統領の風聞に関するサンケイのネット記事

2014年9月10日22時15分発信のJTBCニュース(韓国)によると、“韓国検察(ソウル中央地検)は、セウォル号事件当日、朴槿惠大統領の所在(行跡)に関する疑問を報道した加藤達也産経新聞ソウル支局長を早ければ来週頃(2014年9月15日以降)に起訴することにした”という趣旨のニュースを報道しました。この間、加藤達也氏に対する2度の出頭要請等の検察の動きに対して、各国報道機関等からの批判が相次ぐ中で、韓国検察の動きが注目されていましたが、いよいよ起訴が間近に迫っているとの報道が流れたということになります。

 8月26日の中央日報の記事によると、従前、ソウル中央地検は“情報通信網法上の名誉毀損罪”で起訴すると伝えられていたのに対して、この中央日報の記事で初めて“刑法上の名誉毀損罪”の嫌疑で起訴するという方針が伝えられました。この段階で“情報通信網法上の名誉毀損罪”を“刑法上の名誉毀損罪”に変更することは、どのような意味があるのかを考えてみましたが、“刑法上の名誉毀損罪”と“情報通信網法上の名誉毀損罪”との違いはどこにあるかというと、“情報通信網法上の名誉毀損罪”は“誹謗の目的”がなければ成立しません。一方、“刑法上の名誉毀損罪”は、このような〝誹謗の目的“は成立要件ではありません。また、“刑法上の名誉毀損罪”には特別な違法性阻却事由が認められていて、①摘示した事実が真実であり、②公共の利益のために行ったという2条件が認められれば違法性が阻却され、名誉毀損罪が成立しないことになります。

他方、情報通信網法上の名誉毀損にはこのような違法性阻却事由は認められません。そこで、上記のとおり、ソウル中央地検が“情報通信網法上の名誉毀損罪”で起訴すると言う報道が流されていた8月終わりころに初めて“刑法上の名誉毀損”で起訴するのではないかとの観測記事が流れたわけで、私は、これによってソウル中央地検(もしくは大統領府)は本件を穏便な形で処理する道も探っているのではないかとの推測をしてみましたが、その後、おそらく検察は、大統領府(青瓦台)との間で本件の処理をどうするかについて話し合いをもっていたのに違いありません。なぜなら、“刑法上の名誉毀損罪”も“情報通信網法上の名誉毀損罪”もどちらも韓国刑法で言うところの反意思不罰罪とされていて、被害者の明示の意思に反して公訴を提起することはできません。したがって、本件名誉毀損行為の被害者と目される朴槿惠大統領の明示の意思に反して公訴提起することはできないのです。このような場合、通常検察は被害者を呼び出して取り調べをし、被害者の処罰意思を確認した上で調書を作ります。今回は朴槿惠大統領が被害者と言う特別な場合であり、かつ8月3日の加藤達也氏の記事が配信されてすぐに、大統領府の方でこれに対する断固たる民事刑事上の措置をとる旨の発言があったことから、少なくとも朴槿惠大統領の明示的意思に反しないことは推測できますが、公訴を提起した後、これを撤回される可能性もないとは言えないので、おそらく念には念を入れて朴槿惠大統領及び大統領府の意向を確認したと思われます。そのうえで今回の“来週頃起訴することにした”との報道が流れたという経緯なので、起訴の可能性は残念ながら現実に高まっていると見ざるを得ません。

しかし、各報道機関や関係機関からの批判にもあるとおり、朴槿惠大統領の行動は高度に公的な問題であり、朴槿惠大統領がセウォル号沈没事故当日どこにいたかという所在の問題は公的な利益に関わる問題と言わざるを得ません。産経新聞の記事での取り上げ方に、朴槿惠大統領の私生活に対する興味本位的な書きぶりが見られるにしても、問題自体が公共的な問題であることは否定しようがありません。韓国検察が今回この件を起訴した場合、公共の利益に関わるという側面を重視すれば、誹謗の目的が否定される可能性は十分あり得ると思います(大法院2012.11.29判決)。

そして、“情報通信網法上の名誉毀損罪”であっても、もし“誹謗の目的”が否定されれば、単なる刑法上の名誉毀損罪の成否が問題となり、前述した特別の違法性阻却事由が認められる場合には、違法性が阻却されることになるのです。この違法性阻却事由が認められるかどうかに関しては、ポイントは、事実の真実性に関して、事実を真実だと信じたことについて相当の理由があるか否かにかかっていますが、大法院の判例によれば、報道機関による名誉毀損的報道については、それが悪意または著しく不相当な報道でなければ処罰できないという立場をとっているものと思われます(大法院2012.11.15判決)。この点から言って、起訴した後も韓国検察が有罪に持ち込むために越えなければならないハードルは決して低くはないと考えられ、韓国検察が起訴を断念するという選択肢も、まだわずかながら残っているのではないかと思います。

いずれにしても、来週(2014年9月15日以降)のソウル中央地検の動向が注目されます。

(記述 弁護士高初輔)

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