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〈Q2〉
在日韓国人の父(韓国籍)がこの度亡くなりました。遺産としては日本の銀行に預金があり、実家(東京)の土地建物が亡父単独名義です。韓国には遺産はありません。母親と私を含めた兄弟3人が相続人なのですが、一番上の兄が行方不明で10年間生死が分かりません。この場合、行方不明の兄についてはどうしたら良いのでしょうか。なお、長男は独身者で妻子はおりません。
〈A2〉
遺産である預金の払い戻しを受けたり、亡父名義の土地・建物を相続人に移転登記したりするためには、相続人全員が署名(記名)捺印(実印)した遺産分割協議書または家庭裁判所における遺産分割の調停調書が必要です(もちろん亡父が有効な遺言書を残していればそれに基づいて処理できますが、本件ではそのような遺言書はないものとして回答します。)。
そこで、行方不明者であるお兄さんの署名(記名)捺印(実印)がとれないので、このままの状態では遺産分割協議書も作れませんし、家庭裁判所での調停調書も作ることは出来ません。お兄さんが10年間生死不明状態だということなので、本件では日本の家庭裁判所に失踪宣告の申立をすることが出来ます。行方不明の人の生死が7年間分明でない時は、失踪宣告の申立をすることが出来ることとされています(日本民法30条1項、家審9条1項甲類4号)。管轄裁判所は、お兄さんの住所地の家庭裁判所です。この場合、お兄さんは韓国籍ですが、日本の法律に基づいて日本の裁判所に失踪宣告の申立をすることが出来ます(法適用通則法6条1項、2項)。
失踪宣告の申立をすると、家庭裁判所が家庭裁判所調査官を通じて次の事項を調査します。①申立人が利害関係を有するか。②不在者の生死不明の真偽。③不在者の生死不明が真実とすれば、最終の住所地及び生死不明となった時期の特定。④失踪期間が7年間経過しているか。
これらの事項を調査のために、相続人や関係者に照会書を送付したり公務所照会などを行います。その上で、失踪者に対し公示催告期間までに届出をするように、また生死を知る人がいたら届出をするように公示催告をします(家審規39条)。公示催告期間は6ヵ月以上必要であり、さらに通常、公示催告期間満了の前後に最終照会書を当事者に出した上で失踪宣告の審判をしますので、失踪宣告の申立から失踪宣告の審判確定までは1年以上かかることもあります。この点それなりの期間が必要であることを念頭に入れておいた方が良いでしょう。
相続税の申告・納付は、死亡の日から10ヵ月以内となっておりますので、失踪宣告の手続終了がそれに間に合わない場合が考えられます。失踪宣告の終了を待つ期間的余裕がないときには、その状態では行方不明者であるお兄さんの代わりに手続をとってくれる人がおらず、銀行預金を下ろす事が出来ません。そこで、お兄さんの代わりに行動をしてくれる不在者財産管理人を選任して、不在者財産管理人と他の相続人が協力して銀行に対し相続預金の払戻請求をすれば、払い戻しを受けることが出来ます。こうすれば、失踪宣告が出る前に相続預金の払い戻しを受けて相続税の申告・納付に間に合わせることが出来ます。
なお、日本で失踪宣告の審判が出た場合、日本人であれば、審判が確定してから10日以内に失踪者の本籍地または申立人の住所地の市町村役場に失踪届を提出することになっており、これにより戸籍に死亡の事実が記載されることになりますが、韓国籍の人については、日本の役所には戸籍がありませんので、失踪届を提出するということはありません。
なお、駐日韓国領事館もしくは韓国にある役所に日本の家庭裁判所の失踪宣告審判書を提出しても、それによって韓国の戸籍関係にお兄さんの死亡の事実が記載されるということもありませんので、この点注意して下さい。
(2012.12.12 弁護士高初輔 記述)