遺言によって定めることができる事項は、法律に列挙されており、それ以外のことを定めても法的には意味がありません。例えば、「兄弟仲良くするように」「母に孝行するように」などという遺言は、道義的には大事なことでしょうが、法的には意味がないと言ってよいでしょう。
韓国法においても、日本法においても、遺言によって定めることができる事項として規定されているのは以下のような事項です。
① | 遺言によって、婚外子を認知することができる |
---|---|
② | 遺言によって、未成年後見人を指定することができる |
③ | 遺言によって、遺産分割の方法を指定することができる |
④ | 遺言によって、5年を超えない期間を定めて遺産分割を禁止することができる |
⑤ | 遺言によって、遺贈をすることができる |
⑥ | 遺言によって、遺言執行者を指定することができる |
これに対して、韓国法では遺言で定めることができるけれども、日本法では遺言で定めることができない事項としては、以下のようなものがあります。
① | 韓国法では、遺言によって、嫡出否認をすることができる |
---|---|
② | 韓国法では、遺言によって、相続準拠法を定めることができる |
これらのうち、嫡出否認については、「在日韓国人の嫡出否認」の項目を参照していただくことにして、ここでは、遺言による相続準拠法の指定について、解説しましょう。
遺言によって定めることができる事項のうち、日本法と韓国法の最も大きな違いは、韓国法においては、遺言によって、相続準拠法を定めることができるということでしょう。
例えば、日本に長年住んでいる在日韓国人が、遺言において、「相続準拠法は日本法とする」と指定した場合、韓国法によると、この指定は有効なものと解されますので、相続準拠法は日本法ということになります。
詳しく説明しますと、通則法36条によって、「相続は、被相続人の本国法による。」とされていますので、遺言をしようとする者が韓国籍である場合、相続準拠法は、原則として、韓国法ということになります。しかしながら、通則法41条により、「当事者の本国法による場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による。」とされていますので、上のように、相続準拠法を指定した遺言があるときは、韓国法上は日本法を準拠法とせよと言っているということになりますので、結局、日本法が準拠法となるのです。
つまり、日本に長年住んでいる在日韓国人が、日本に帰化をしておらず、韓国籍を保持しているならば、自らの意思によって、相続準拠法を韓国法とすることもできますし、日本法とすることもできるということです。相続法は、日本法と韓国法で大きく違う分野ですので(詳しくは、「在日韓国人の相続」の項目を参照。)、この点について、自らの意思で準拠法を決められるというのは、遺言をしようとする者にとっては、韓国法の大きなメリットと言うことができるでしょう。