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〈Q5〉
この度私の父(在日韓国人、韓国籍)が亡くなりました。亡父の遺産として、銀行預金が100万円と、時価1,000万円相当の土地・建物がありますが、負債としてそれをはるかに超える約4,000万円相当の借金があります。相続人は私と母の2人ですが、莫大な借金を相続しないためにはどうしたら良いでしょうか。亡父の葬式と四十九日の法要をするために100万円の銀行預金は使いたいのですが、使っても良いのでしょうか。
〈A5〉
この場合、プラスの財産が銀行預金を含めて1,100万円、マイナスの財産(借金)が4,000万円なので、差引2,900万円のマイナスになってしまいます。したがって、単純相続をすることはあなた方にとっては極めて不利な事態になるので、相続放棄をするのが良いでしょう。韓国民法1019条により、「相続人は相続開始があったことを知った日から3ヵ月内に単純承認するか、限定承認または放棄をすることができる」旨規定されていますので、3ヵ月以内に相続放棄の手続をしなければいけません。相続放棄は、家庭法院(家庭裁判所)に放棄の申告をする方法で行うことになっています(韓国民法1041条)。韓国法では「放棄の申告」といい、日本では「放棄の申述」といっていますが、内容は同じです。
亡父は韓国籍なので、相続は韓国法に基づくことになりますので、相続放棄の申告も韓国の家庭法院で行わなければならないのではないかという疑問もありますが、在日韓国人の相続に関する放棄の場合は、亡くなった人の最後の住所地を管轄する裁判所、すなわち日本の裁判所に相続放棄の申述をしてもよく、日本の家庭裁判所をこれを受理してくれます。ただ、ここで注意していただきたいのは、このように日本の家庭裁判所にだけ相続放棄の手続きをすればよいのは被相続人の債務が日本にだけ存在し、韓国には債務がないことがはっきりしている場合でなければなりません。もし韓国にも債務がある場合には、韓国でも相続放棄の手続をとっておいた方が安全です。
なお、葬式費用などのために亡父の100万円の銀行預金を使いたいとの希望があるようですが、それを使ってしまうと相続放棄の手続は認められず、単純承認をしたものとみなされてしまいますので注意して下さい(韓国民法1026条1号、3号)。
(2012.12.14 弁護士高初輔 記述)