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日韓をめぐる家族法(婚姻・離婚・親子・親権・相続)法律相談 【相続放棄の申述とその受理】

相続放棄とは,相続開始後に,相続人が,相続の効果が生じることを拒否することをいう。
相続放棄をするには,相続人は,相続開始があったことを知った時から三か月以内に行わなければならないのであるが,その旨宣言するだけではだめであって,家庭裁判所への申述という手続を経なければならない。

そして,仮に,被相続人が死亡時に韓国人であったということであれば,相続の準拠法は被相続人の本国法であるので,結局,準拠法は韓国法ということになるのであるが,韓国法でも,相続放棄は,原則として相続開始を知った時から3か月以内の申述を要求している。

ここで,多額の借金を抱えた父親が死亡したため,子が相続放棄をしたいという場合を考えてみよう。
被相続人である父親は在日韓国人である。
さて,この場合,相続については,上で書いたように,準拠法は韓国法となるのが原則であるが,ここで,日本の国際私法には反致という制度がある。

これは,簡単に言うと,日本の国際私法によって,準拠法が外国法と指定された場合でも,その外国の国際私法によって準拠法が日本法に指定されているときは,ブーメランのように行って戻って結局準拠法は日本法になるというものである。
そして,韓国の国際私法によると,相続の準拠法については,被相続人が遺言により指定できるという規定がある。
そうすると,仮に,遺言書によって,被相続人が相続の準拠法を日本法と指定している場合には(これは,在日韓国人の場合にはままあることである。),結局相続の準拠法は日本法ということになる。

少し脇道にそれたが,話を戻そう。
相続の準拠法が日本法であっても,韓国法であっても,相続放棄自体の問題はそれほど差はないので,とりあえず日本法で考えると,相続放棄は,上で述べたように,家庭裁判所への申述という手続を経なければならないのであるが,これはいわゆる法律行為の方式というものに当たる。
この方式というのも,国際私法上厄介なもので,おおもとの問題に適用される準拠法とは別に,その方式の準拠法というのも定められている。
そして,方式の準拠法というのは,相続の準拠法に適っていればそれで良いし,また,その行為を行う場所の準拠法に適っていてもそれはそれで良いということになっている。
そうすると,ここでは,相続の準拠法は韓国法であるものの,相続放棄の申述を日本の家庭裁判所で行う場合には,日本法に適っていればそれはそれでOKだということになる。

さて,相続放棄の準拠法の問題及びその方式の準拠法の問題がわかったところで,それでは,実際に相続放棄を家庭裁判所に申述する場合を考えてみよう。
これは,上で述べたように,相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に行わなければならない。
それでは,上の例で,父親が死亡後長年月が経った後,相続放棄の申述をしたときに,家庭裁判所はそれを受理してくれるだろうか。

これについては,東京高裁平成22年8月10日決定が判断してくれている。
すこし詳しく決定文を引用すると,家庭裁判所は,「相続放棄の申述がされた場合,相続放棄の要件の有無につき入念な審理をすることは予定されておらず,受理がされても相続放棄が実体要件を備えていることが確定されるものではないのに対し,却下されると相続放棄が民法938条の要件を欠き,相続放棄したことを主張できなくなることにかんがみれば,家庭裁判所は,却下すべきことが明らかな場合以外は,相続放棄の申述を受理すべきである」ということである。

つまりどういうことかというと,家庭裁判所としては,自分のところで相続放棄の申述を門前払いしてしまうと,もし仮にあとあと「実は要件が備わっていた」なんてことになると裁判所のせいになってしまうので,とりあえず受理は認めるということである。
例えば,被相続人が死亡した日より何年も経って申述がなされたので,裁判所は門前払いしたところ,実は相続人が被相続人の死亡を知ったのはつい最近だったので,「相続の開始があったことを知った時から3か月以内」という要件を満たしている場合,裁判所が門前払いをした責任は大きい。
このようなミスをなくすための次善の策として,裁判所は,相続放棄の申述がなされたら,却下すべきことが明らかな場合以外はとりあえず受理しましょうということである。
これはこれでひとつの合理的な判断である。

さて,それでは、相続放棄の申述が受理されたらめでたしめでたしかというと,当然にそうとは言えない問題がある。
家庭裁判所が認めたのは,あくまで,明らかに要件が備わっていない相続放棄とは言えないから一応受理しましょうということなのであって,この相続放棄が有効かどうかというのは,別に争われる可能性が大いに考えられるのである。
上の例で言うと,被相続人である父親の債権者が,相続放棄した子に対して,相続放棄は期間徒過後に行われたものであって無効であるから,相続人は債務を相続しているとして,貸金返還請求訴訟を提起してくることなどはそのわかりやすい例だろう。

そういうことであるから,結論めいたことを言うと,相続放棄には厳格な期間制限があるのであるから,相続人は放棄の意思がある場合は,なんとしてもその期間に間に合わせるように相続放棄の申述をすることを心がけるというのが最善の策ということであろう。

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