※注意事項 下記のQAを作成した時期により、既に法令や判例が改正・変更されていることもありますので、実際の事案に下記QAを利用する時には必ず当事務所にご相談ください。下記情報を利用した結果についていかなる責任も負うことは出来ませんので、その点ご了承のうえ利用して下さい。
A氏:今日は貸付債権の消滅時効の中断について質問します。
当行Xが取引先のY社に5000万円の融資をして、その担保として関連会社であるZ社所有の不動産に根抵当権を設定しましたが、Y社が毎月の割賦金の支払を数ヵ月ためたので、物上保証人Zの上記不動産の根抵当権を実行しました。現在、それから既に1年たっておりますが、競売での配当手続は終了しています。当行のY社に対する貸付債権の消滅時効は抵当権の実行によって中断していると考えて良いですか?
B弁:抵当権の実行による被担保債権の消滅時効の中断という問題ですが、この場合、抵当権の実行の相手方は債務者本人ではなくて物上保証人ですから、抵当権の実行自体で主債務者Yに対する貸付債権の消滅時効が中断するものではありません(民法154条の「差押」により時効中断するためには債務者自身の所有不動産に対する差押でなくてはなりません)。今回は物上保証人の所有不動産に対する抵当権実行による差押ですから、民法155条の規定により、物上保証人に対する競売開始決定の正本が債務者に送達されることによって初めて時効中断の効力を生じます(最判 昭和50年11月21日)。
したがって、本件でもこのような債務者への競売開始決定正本の送達がなされているかどうかを確認して(おそらくなされているでしょうが)、正本が送達されていれば、消滅時効が中断することになります。ただし、この送達がいわゆる書留郵便に付する送達の場合や公示送達の場合に、はたして時効中断の効力が認められるか否かが問題になります。
A氏:それらの場合はどうなりますか?
B弁:まず、競売開始決定が書留郵便に付する送達によってなされた場合、書留郵便で発送した時に訴訟上は送達があったものとみなされますが、実体法的にも送達があったものとされるわけではありません。あくまでも債務者への到達が必要であり、したがって、これが確認されないといけません。次に、公示送達の場合はどうかというと、これについては公示送達による送達でも時効中断の効力は認められ、裁判所の掲示場に掲示を始めた日から2週間経過すれば送達したものと認められ、時効中断の効力が生じます。これは民事訴訟法113条により公示送達による意思表示の到達が実体法上の効果として認められているため、このように解されるものです。つまり、民法155条の通知についても民訴法113条を類推適用することによって、通知が実体法的にも到達したものと認められ、消滅時効が中断することとなるのです(最判 平成14年10月25日)。
なお、以上の問題について、韓国の裁判所ではどのように取り扱われているかというと、韓国でも物上保証人に対する競売開始決定の正本が債務者に送達されなければ消滅時効中断の効力は認められません。ここで問題になるのは、どのような方法によって送達されなければならないかということですが、韓国の大法院では交付送達でなければ時効中断の効力を認めず、公示送達や郵便送達(日本の付郵便送達と同じ)では足りないとされています(大法院1990年1月12日、1994年11月25日)。