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弁護士による韓国法律情報5 【韓国国際私法1】

※注意事項 下記の韓国法律情報を作成した時期により、既に法令や判例が改正・変更されていることもありますので、実際の事案に下記韓国法律情報を利用する時には必ず当事務所にご相談ください。下記情報を利用した結果についていかなる責任も負うことは出来ませんので、その点ご了承のうえ利用して下さい。
 
今回のテーマは、国際裁判管轄の中でも専属的国際管轄の合意の問題です。
例えば、日韓の取引関係当事者で将来紛争が発生した場合のその紛争を処理する裁判所を日本の裁判所と定めたり、韓国の裁判所と定めたりすることがありますが、これを日本の裁判所に限る(専属的管轄合意)とした場合に、それにもかかわらず韓国側の当事者が韓国で裁判を起こした場合、上記のような専属的国際管轄合意があることを理由に抗弁(防訴抗弁)を提出した場合、韓国の裁判所は、果たしてこれを認めてくれるのでしょうか、という問題です。
 
事案の概要は次のとおりです。
輸入者は韓国所在の韓国法人(A)で、輸出者は香港所在の中国法人(B)です。
AB間の貿易取引につき、Aの依頼で韓国所在の銀行X(原告)が信用状を開設しました。Y(被告)は日本法人たる海上運送業者で、YがBの依頼で仕向地である蔚山港まで海上運送し陸揚げしましたが、船荷証券と引き換えでなしに、貨物を引き渡したことにより、船荷証券所持人たるXの貨物に対する所有権を侵害したという不法行為に基づく損害賠償請求権に基づいてXがYを被告として韓国の裁判所に損害賠償請求訴訟を提起した事案です。
この船荷証券の裏面には、紛争が発生した場合の専属的国際裁判管轄の合意(日本の東京地方裁判所とする旨の合意)があり、また準拠法も日本法とする指定がありました。
しかし、韓国の裁判所は、本件訴訟において被告の専属的国際裁判管轄の合意による訴え却下の申立(本案前の抗弁)を次のように述べて退けました。
 
「1 大韓民国法院の管轄を排除して外国の法院を管轄法院とする専属的な国際管轄の合意が有効であるためには、当該事件が大韓民国法院の専属的管轄に属せず、指定された外国法院がその外国法上当該事件について管轄権を有していなければならない他、当該事件がその外国法院に対して合理的な関連性を有することが要求されると言うべきであり、一方専属的な管轄合意が著しく不合理で不公正な場合にはその管轄合意は公序良俗に反する法律行為に該当する点でも無効と言うべきである(大法院1997年9月9日宣告96?20093判決参照)。
 原審は本件が日本国の東京地方裁判所と関連性を有していると見るに足りる点は本件荷物の輸出者(香港にあるB株式会社)が日本に本店を置く運送業者である被告との間に貨物の運送契約を締結し、被告所有の船舶によって貨物を運送するという点くらいであるというところ、一方本件信用状開設銀行である原告と本件荷物の輸入者であるA株式会社(以下、「A」という。)はすべて大韓民国に主たる事務所をおき、代表者及び社員が韓国人で構成された大韓民国の法人であり、運送の目的地も大韓民国蔚山港であるから、日本国東京都は関連がなく、運送物が滅失された経緯に関しては原告被告間に争いがなく、その他に本件の審理に必要な重要な証拠方法がすべて大韓民国内にいる韓国人である証人であったり文書であり、運送人の責任範囲や免責要件に関する日本国の法が大韓民国の法より運送人である被告に一層有利であると見るべき資料もない点等に照らし、日本国東京で訴訟を遂行することが被告に必ず一層有利であると見ることはできないので本件専属的管轄合意は事件がその指定された外国法院に対して合理的な関連性を欠如しているものとして専属的管轄合意が有効要件を具備せず無効である場合だと判断したところ、ここに次に見るように本件の準拠法が日本国法ではなく大韓民国法であるという点まで合わせて考慮してみれば、原審の上記判断は正当であり上告理由第一点で主張する専属的国際管轄合意要件及び効力に関する法理誤解等の違法はない。
2 原審は本件船荷証券裏面約款に船荷証券により立証される契約に適用される準拠法が規定されていたとしてもこの規定が運送契約上の債務不履行ではなく不法行為を原因とした損害賠償請求についてまでその準拠法を排他的に適用することにした主張と解釈されるものではないとしつつ、原告の本件請求は被告が船荷証券と引き換えでなく貨物を引き渡したことにより船荷証券所持人の本件荷物に対する所有権等を侵害した不法行為を原因とした損害賠償請求であり、その準拠法は旧渉外私法13条1項により不法行為地(揚陸港である蔚山港)である大韓民国の法であるとしたところ、記録によりこのような原審の事実認定及び判断は正当であり、ここに上告理由第二点で主張する本件船荷証券裏面約款の準拠法に関する法令誤解等の違法はない。」(大法院2004年3月25日宣告2001?53349判決の理由一部抜粋)
 
以上の判決文の要旨をまとめると次のようになります。
「(1)大韓民国法院の管轄を排除して、外国の法院を管轄法院とする専属的な国際管轄の合意が有効であるためには、当該事件が大韓民国法院の専属管轄に属せず、指定された外国法院がその外国法上当該事件に対し管轄権を有していなければならない他、当該事件がその外国法院に対して合理的な関連性を有することが要求されると考えるべきであり、一方専属的な管轄合意が明らかに不合理で不公正な場合にはその管轄合意は公序良俗に反する法律行為に該当する点でも無効である。
(2)管轄法院として制定された外国法院に対して、当該事件が合理的な関連性を有しておらず、当該事件の準拠法も外国でなく大韓民国法であるという点等を考慮して、外国法院を管轄法院として指定した専属的国際管轄合意は無効である。」
結局、上記韓国の大法院判決によれば、韓国の裁判所以外の外国の裁判所を専属的国際管轄裁判所として指定する合意が有効であるためには、次のような要件が必要になります。
(1)当該事件が大韓民国法院(裁判所)の専属管轄に属さないこと。
(2)指定された外国法院(裁判所)がその外国法上当該事件に対して管轄権を有していること。
(3)当該事件がその外国法院(裁判所)に対して合理的な関連性を有していること。
(4)専属的な管轄合意が著しく不合理で不公正でないこと。
以上の4つの要件のうち、(1)、(2)、(4)は日本の裁判所も専属的国際管轄合意の有効要件として挙げているものです。しかし、日本の裁判所は、(3)の要件を要求していません(最高裁判決昭和50年11月28日)。韓国の裁判所がこの(3)の要件を要求していることについては批判もありましたが、この2004年判決は1997年9月9日判決を踏襲して従来どおり(3)の要件を要求しました。
以上のとおり、韓国の大法院判例は上記のとおりで、たとえ契約書に専属的国際管轄の合意をしても100%安心できるわけでないことに注意して下さい。
また、上記大法院判決にも触れられていますが、契約上の義務違反が不法行為になるときは、契約準拠法の指定が生かされないことにも注意すべきでしょう。
(2009.7.30 記述、判決文翻訳 弁護士高初輔)

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