※注意事項 下記の日本法法律相談を作成した時期により、既に法令や判例が改正・変更されていることもありますので、実際の事案に下記韓国法律情報を利用する時には必ず当事務所にご相談ください。下記情報を利用した結果についていかなる責任も負うことは出来ませんので、その点ご了承のうえ利用して下さい。
A氏 日本企業と取引のある韓国企業の法務担当者
B弁 同社顧問弁護士
A氏 今度韓国の民法が一部改正される予定があると聞きましたが何が改正されるんですか?
B弁 そのとおりです。韓国の民法の留置権制度が改正され、それに伴って不動産登記法や民事執行法も一部改正される予定です。2013年1月16日付で韓国法務部が留置権制度の改正案の内容について立法予告をしました。
A氏 具体的にどのような改正内容になりますか?
B弁 韓国の民法では日本の民法と同様、法定担保物権として留置権が認められています。韓国の現行留置権は日本の留置権と同様、①他人の物の占有者につき②その物に関して生じた債権に対して留置権の成立が認められることになっています。①の「物」の中には動産も不動産も含まれているのですが、今回の改正案の内容では、この物について、登記された不動産には留置権の成立を認めないこととし、未登記不動産については一時的な形で留置権を認めることとしました。その背景には、不動産競売手続で留置権が悪用、濫用されるケースが多いと言う事情があったものと思われます。従前、不動産の競売手続で留置権が主張されて競売がスムーズに進まなかったり、あるいは対象不動産の価格が大幅に値下げしたりするという弊害が指摘されていたため、今回の改正案の立法予告に至ったものです(改正案320条、372条の2、372条の3)。
次に、留置権が発生する被担保債権の範囲を明確にするため、改正案では「その動産に対する費用支出による債権、またはその動産による損害賠償債権」と明文で規定しました。これにより、日本では認められている被担保債権も、今後改正法が施行されれば韓国では留置権の被担保債権として認められなくなります。例えば、売買代金債権などは留置権の被担保債権の範囲には含まれないこととなるでしょう。
A氏 そうすると、従前、建築工事代金の支払いを受けられない場合に工事業者が留置権を根拠に建築完了後の建物を占有するという形の紛争がありましたが、それはどうなるのでしょうか?
B弁 今回の改正により、登記された不動産については留置権の成立が認められないことになりましたが、未登記の不動産、例えば建築完成直後の建物でまだ登記していない場合については留置権の成立が認められます。したがって、建築業者が建物を建築したのに建築代金を払ってもらえずにその建物を留置するというケースがありますが(大法院2008.5.30・2007マ98決定/大法院1995.9.15・宣告95タ16202、95タ16219判決)、その場合、その建物は登記されていない不動産であり、建築代金はその建物に対して行った費用支出による債権と考えて良いと思います。そうすると、改正案第370条2項により、他人の未登記不動産を占有する者に対しても同条第1項の留置権規定が準用され、留置権の成立が認められることになります。(しかし、現行の留置権規定においても新築建物工事代金を被担保債権にして、その建物敷地である土地に対する留置権または商事留置権が認められるかということ自体が1つの重大な問題です。もしこれが認められなければ、結局は建物に留置権が認められても意味のないものとなります。)
また、この場合、同372条の2の規定により、建築業者は当該建物が登記された日から6ヵ月以内に、訴えにより不動産所有者に対して抵当権設定請求をしなければならないことになりました。不動産抵当権設定請求権は、留置権が成立した後に不動産の所有権を取得した者に対しても行使することができます。6ヵ月以内に訴訟を提起して上記請求をしなければ抵当権設定請求権は消滅します。
なお、以上の留置権の改正に伴う民事執行法の改正により、従来留置権は日本と同様、引受主義のもとに競売が実行されても消滅しない扱いでしたが、今後は消滅主義に転換し、競売手続による売却により消滅することとなります。
(2013.2.26 記述 弁護士髙初輔)