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A氏:日本企業と取引のある韓国企業日本現地法人の法務担当者
B弁:同社顧問弁護士
A氏 日本に所在する当社取引先(日本企業)が売買代金債権を支払ってくれません。以前もこのようなことがあって、その時に代表者個人所有の土地、建物(ビル)に根抵当権を設定させてもらいましたが、このビルは現在賃借人が何人か入っており、その賃料の合計が1,000,000円になるそうです。何とかこの賃料を当社の債権に充当したいのですが、どうしたらいいでしょうか?韓国では抵当権に基づいて賃料に物上代位することはできないと聞いていますが、日本ではどうでしょうか?
B弁 お話のとおり、確かに韓国の場合は、抵当権者が抵当物件である建物の賃料債権にかかっていくことはできないものとされています。これはいわゆる抵当権に基づく物上代位の問題です。日本では一般的に抵当物件の所有者(抵当権設定者)がこの物件を賃貸している場合、賃料債権に対して抵当権に基づく物上代位をすることができ、これによって差押をして賃料債権を直接取り立てることができます。しかし、韓国では、物上代位の対象は担保物の滅失、毀損、公用徴収という直接的な原因で発生した金銭その他の物件に限られ、抵当物との経済的、社会的同一性が認められる範囲に限定されています。日本のように賃料債権に対する物上代位は認められていません。なお、参考までに言うと、日本では抵当権の物上代位は先取特権の規定である日本民法304条が準用されるという形になっていますが、韓国では質権の物上代位の規定(韓国民法342条)が抵当権に準用されるという体裁になっています(韓国民法370条)。そして、この日韓両国の物上代位の規定が明らかにことなっているのです。つまり、韓国民法には日本民法に存在する「目的物の売却、賃貸」という文言が含まれていないのです。
A氏 具体的には私たちはどうすればいいのでしょうか。
B弁 裁判所に抵当権の物上代位に基づいて債権差押命令を申し立てればよいのです。これによって抵当権設定者・所有者の賃借人に対する賃料債権を差し押さえることができます。差押命令は、まず第三債務者である賃借人に送達され、それが確認されてから債務者である抵当権設定者・所有者に送達されます。これによって差押の効力が発生して、債務者に送達された日から1週間経てば直接賃借人から取り立てることができます。もし、賃借人が賃料を払わなければ取立訴訟を起こすことになります。
(2013.2.5 記述 弁護士髙初輔)