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今回紹介する大法院判例は、相続放棄と死亡保険金の問題です。事例の内容については判決の中身を見て下さい。日本の相続法でも問題になっている点ですが、相続放棄をした相続人は被相続人が契約していた死亡保険金を受け取ることができるか、死亡保険金を受け取った場合に単純承認とみなされ、相続放棄は無効となってしまうのかという問題です。
これについて日本の最高裁は、死亡保険金は相続人固有の財産であって相続放棄をした相続人もこれを受け取ることができると解釈しておりますが、基本的には韓国の大法院も同じ立場をとっています。
大法院2004.7.9宣告2003タ29463判決
判決要旨
(1)自動車傷害保険は、被保険者が被保険自動車を所有・使用・管理する間に生じた被保険自動車の事故により傷害を受けた時に、保険者が保険約款に定めた死亡保険金や負傷保険金、または後遺障害保険金等を支給する責任を負うものとして、人保険の一種ではあるが、被保険者が急激であっても偶然の外部から生じた事項により身体に障害を受けた場合に、その結果により保険約款に定めた補償金を支給する保険であるので、その性質上、傷害保険に属する。
(2)保険契約者が被保険者の相続人を保険受益者として結んだ生命保険契約において、被保険者の相続人は被保険者の死亡や保険事故が発生した時には保険受益者の地位で保険者に対して保険金支給を請求することができ、この権利は保険契約の効力から当然に生ずるものとして、相続財産ではなく相続人の固有財産であると言うべきであると、これは傷害の結果により死亡した時に死亡保険金が支給される傷害保険において被保険者の相続人を保険受益者とあらかじめ指定しておいた場合はもちろん、生命保険の保険契約者が保険受益者の指定権を行使する前に保険事故が発生して、商法第733条により被保険者の相続人が保険受益者になる場合にも同じであると見なければならない。
(3)保険受益者の指定に関する商法第733条は、商法第739条により傷害保険にも準用されるので、結局傷害の結果により死亡した時に死亡保険金が支給される傷害保険において保険受益者が指定されておらず、上記法律規定により被保険者の相続人が保険受益者になる場合にも保険受益者である相続人の保険金請求権は相続財産ではなく相続人の固有財産と見なければならない。
事実関係
1.原審の判断要旨
カ.原審はその採用証拠等を総合して、次のような事実を認定した。
(1)パクカンソは原告から1998年8月頃 1億5000万ウォンを、同年9月頃 1億ウォンをそれぞれ借用した後、1999年11月20日頃に至り、原告との間で上記元金に利子を付けて合計3億ウォンを2000年6月30日までに原告に支給することと約定した。
(2)パクカンソの息子である被告パクチョルウォンは2000年12月6日頃、LG火災海上株式会社との間で、被保険自動車をソウル4オ7304号エルラントラ乗用車に、被保険者をパクカンソに、保険期間を2000年12月7日から2001年11月7日までとする、プラス、個人用自動車保険契約を締結したが、上記自動車保険にはその担保内容として対人賠償Ⅰ、対人賠償Ⅱ、対物賠償、自動車傷害、無保険車傷害、自己車両損害等が含まれていて、そのうち自動車傷害保険(以下「保険自動車傷害保険」と言う。)は、保険加入金額が、死亡の場合は一人あたり2億ウォン、負傷の場合は一人あたり2万ウォン、後遺障害の場合は一人あたり2億ウォンと定められていた。
(3)被告パクチョルウォンは、自動車保険に関して上記のようにパクカンソを被保険者と指定しはしたが、自動車保険に含まれていた本件自動車損害保険の死亡保険金に関する保険受益者を別に指定しはせず、その保険約款にも保険受益者の決定に関する内容が規定されていなかった。
(4)パクカンソが2001年3月10日、被保険自動車を運転していた間発生した交通事故で死亡した後、パクカンソの妻と息子である被告らは、同月21日、LG火災海上保険株式会社から本件自動車傷害保険の死亡保険金として56,627,290ウォンの支給を受けた。
(5)一方被告らは、同年5月7日、ソウル家庭法院に相続放棄の申告をして、同月16日、相続放棄申告を受理する審判を受けた。
ナ.原審はさらに、本件自動車傷害保険の死亡保険金は相続財産に属するものであるが、被告らがこれを受領したことは民法第1026条第1号に定める「相続人が相続財産について処分行為をしたとき」に該当し、被告らは単純承認したものと見られ、その後に行われた相続放棄の申告は効力がないという原告の主張に対して、本件自動車傷害保険は人保険の一人として傷害の結果死亡に至った場合生命保険に属するというべきものであるが、保険契約者が保険受益者の指定権を行使する前に保険事故が発生し、被保険者が死亡した場合には、商法第733条により被保険者の相続人が保険受益者になり、そのような場合、保険金請求権は保険受益者である相続人らの固有財産であるだけで、パクカンソの相続財産ではないというべきものであるから、被告らが本件自動車傷害保険の死亡保険金を受領した行為は、民法第1026条第1号に定めた単純承認事由に該当せず、したがって、被告らの相続法に申告は適法であると判断し、原告の上記主張を排斥した。
2.上告理由に対する判断
カ.まず、記録により注意して調べてみると、本件自動車傷害保険の死亡保険金に関して保険契約者である被告パクチョルウォンが保険受益者を指定しなかったばかりでなく、その保険約款にも保険受益者の決定に関する内容が規定されていなかったという原審の事実認定は正当なものと首肯することができ、そこに栽証法則に違反して事実を誤認したり、保険受益者の指定に関する法理を誤解した違法等があるということはできない。
ナ.ところで、本件自動車傷害保険は、被保険者が被保険自動車を所有・使用・管理する間に生じた被保険自動車の事故により傷害を受けた時に、保険者が保険約款に定めた死亡保険金や負傷保険金、または後遺障害保険金等を支給する責任を負うものとして、人保険の一種ではあるが、被保険者が急激であっても偶然の外部から生じた事項により身体に障害を受けた場合に、その結果により保険約款に定めた補償金を支給する保険であるので、その性質上、傷害保険に属するというべきである(大法院2001.9.7宣告2000タ21833判決参照)。したがって、本件自動車傷害保険中、被保険者が傷害の結果死亡に至った時に支給される死亡保険金部分を分離してこれを生命保険に属すると見た原審の判断は誤りである。
しかし、保険契約者が被保険者の相続人を保険受益者として結んだ生命保険契約において、被保険者の相続人は被保険者の死亡や保険事故が発生した時には保険受益者の地位で保険者に対して保険金支給を請求することができ、この権利は保険契約の効力から当然に生ずるものとして、相続財産ではなく相続人の固有財産であると言うべきであると(2001.12.24.宣告2001タ65755判決、2001.12.28.宣告2000タ31502判決、大法院2002.2.8宣告2000タ64502判決等参照)、これは傷害の結果により死亡した時に死亡保険金が支給される傷害保険において被保険者の相続人を保険受益者とあらかじめ指定しておいた場合はもちろん、生命保険の保険契約者が保険受益者の指定権を行使する前に保険事故が発生して、商法第733条により被保険者の相続人が保険受益者になる場合にも同じであると見なければならなく、さらに保険受益者の指定に関する商法第733条は、商法第739条により傷害保険にも準用されるので、結局傷害の結果により死亡した時に死亡保険金が支給される傷害保険において保険受益者が指定されておらず、上記法律規定により被保険者の相続人が保険受益者になる場合にも保険受益者である相続人の保険金請求権は相続財産ではなく相続人の固有財産と見なければならないのである。
そうだとすれば、原審の理由説示に一部適切でない点があるのはあるが、本件保険金請求権が相続財産でないと判断し、法定単純承認に関する原告の主張を排斥した原審の措置は結局正当であり、そこに本件自動車傷害保険中、死亡保険金の帰属関係または相続の単純承認に関する法理を誤解した違法等があるということはできない。
タ.一方、被保険自動車に関する自己車両損害保険金は、相続財産に属するものであることが明白であり、被告らは上記死亡保険金だけでなく、自己車両損害保険金154万8,700ウォンも受領したので、相続人である被告らが相続財産に対する処分行為をした時に該当するという点は、原告が上告審に至って初めて主張する新たな事実であり、原審では主張したところがなかったことが記録上明白であるので、これは原審判決に対する適法な上告理由に成りえず(大法院1992.9.25宣告92タ24325判決、2002.11.25宣告2001タ63575判決等参照)、したがって、原審判決にこの点に関する審理不尽法理誤解等の違法があるとはいえない。
3.結論
以上により、上告を棄却し、上告費用は敗訴者が負担するものとし、関与法官の一致した意見として主文のとおり判決する。
(2012.12.26 記述、判決文翻訳 弁護士高初輔)