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今回のテーマは、韓国の相続法における遺留分の取り扱いについてです。
遺留分とは、亡くなった方、つまり被相続人の生前贈与や遺言による遺贈、その他によっても侵害されず、相続人に確保されるべき一定の割合を言います。
日本でも韓国でも相続人の種類によって相続分の2分の1または3分の1が遺留分とされます(韓国民法1112条。日本民法1028条)。
例えば、父親が亡くなる10年前に長男に生計の資本として5000万円現金で贈与し、なくなったときには無一文だったとします。つまり、死亡当時の遺産はゼロだということです。
この場合、相続人が長男と二男だけだと仮定して、他の相続人である二男はどんな権利があるのでしょうか。二男の本来の相続分は2分の1です。遺留分はさらにその2分の1となりますので、二男の遺留分権は4分の1となります。したがって、二男は長男に対して5000万円の4分の1である1250万円の遺留分の返還請求権を有することとなります。
さて、ここで貨幣価値の変動により仮に10年前の5000万円は現在の貨幣価値に直すと8000万円になっていたと仮定します。8000万円だとその4分の1は2000万円となります。この場合二男が要求できるのは1250万円と2000万円のどちらでしょうか。
日本の民法では2000万円要求できます。遺留分を算定する際の財産の評価の時期は相続開始の時を基準に算定するもので、現金の贈与の場合も贈与額の評価については相続開始の時を基準とすることになります。
そこで、20年前の贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価額をもって評価すべきものとされています(昭和51年3月18日、日本最高裁判決)。韓国の裁判所ではどのように考えているのでしょうか。これが今回のテーマですが、結論からいうと、韓国の裁判所も日本の裁判所と同様に処理しているようです。
以下、その判決文の一部を挙げておきます。
遺留分返還範囲は相続開始当時被相続人の純財産と、問題となった贈与財産を併せた財産を評価して、その財産額に遺留分請求権者の遺留分比率を掛けて得た遺留分額を基準にするのであるところ、その遺留分額を算定するにおいて、返還義務者が贈与された財産の時価は相続開始当時を基準にして算定しなければならない。
(大法院1996.2.9宣告95?17885判決、大法院2005.6.23宣告2004?51887判決等参照)
従って、その贈与された財産が金銭である場合にはその贈与された金額を相続開始当時の貨幣価値で換算してこれを贈与財産の価額としてみることが相当であり、そのような貨幣価値の換算は贈与当時から相続開始当時までの間の物価変動率を反映する方法で算定することが合理的であるということである。原審が認定した事実によれば、原告は1991年7月15日上記亡訴外人から8900万ウォンを贈与されて上記訴外人は2000年3月6日死亡したことによって相続が開始されたものであるので、上記法理に照らして見るとき、原告の遺留分額を算定することにおいて上記亡訴外人の相続財産に合する原告の贈与財産の価額は上記贈与額にその贈与を受けた当時から上記相続開始当時までの物価変動率を反映して算定した価額であると見なければならないのである。
それにもかかわらず原審はこれとは異なる見解から、上記贈与当時から相続開始当時までの物価変動率がどうであるか、民事法定利率が物価上昇率に相当するものであるのか否か等に対して審理・判断しないまま、原告が贈与された上記金額に上記贈与当時から相続開始当時まで民事法定利率である年5%の比率による利子相当額を加えた金額を原告が贈与された財産の価額であると断定して、これを前提にして原告の遺留分額がないと判断してしまったところ、原審判決には遺留分算定の基礎となる贈与財産の評価に関する法理を誤解したか必要な審理をつくさず判決に影響を及ぼす違法があるというべきである。この点に関する上告理由の主張は理由がある(大法院2009年7月23日宣告 2009?28126 所有権抹消登記)。
上記大法院判決の中で重要な点は三つです。
?遺留分額を算定するにおいて、返還義務者が贈与された財産の時価は相続開始当時を基準にして算定しなければならないこと。
?贈与された財産が金銭である場合にはその贈与された金額を相続開始当時の貨幣価値で換算してこれを贈与財産の価額としてみることが相当であること。
?貨幣価値の換算は贈与当時から相続開始当時までの間の物価変動率を反映する方法で算定することが合理的であること。
以上のとおり、この問題に関しては韓国の裁判所も日本の裁判所と同じ考え方を採用していることが分かります。
(2009.8.24 記述、判決文翻訳 弁護士高初輔)