※注意事項 下記のQAを作成した時期により、既に法令や判例が改正・変更されていることもありますので、実際の事案に下記QAを利用する時には必ず当事務所にご相談ください。下記情報を利用した結果についていかなる責任も負うことは出来ませんので、その点ご了承のうえ利用して下さい。
A氏 外国銀行東京支店の職員
B弁 同社顧問弁護士
A氏 当支店が日本在住の在日韓国人Aに融資をし、その際、韓国在住の韓国人Bが当行本店(韓国)に有する定期預金を担保(質権)として提供する場合、次の点はどのように考えたら良いでしょうか。
銀行取引約定書は日本語で記載されていますが、担保差入証は日本語で作成すべきですか韓国語で作成すべきですか。
①確定日付(韓国法では「確定日字」といいいます)は担保差入証に付けるべきですか、A銀行東京支店の承諾書に付けるべきか。
②確定日付(確定日字)は韓国で付けるべきですか、日本で付けるべきですか。
③銀行取引約定書は日本語で記載されていますが、担保差入証は日本語で作成すべきですか韓国語で作成すべきですか。
④仮に日本で確定日付(確定日字)をとる場合、当行本店の承諾書は韓国語のままでよいのですか。
B弁 以下①~④について回答します。
①確定日付は当行本店の承諾書に付けるべきです。自行預金の担保取得の場合、担保差入証を取ること自体銀行側が質権設定を黙示的に承諾しているものと認定され、普通は担保差入証に確定日付をとればよいとされていますが、余分な紛争を避けるためにも、この場合は、承諾書に付けるのが最善と考えます。
②日本の裁判所において定期預金債権の質権が問題となる場合には、債権質の準拠法は目的たる債権すなわち本件で言えば当行本店に対する定期預金債権の準拠法によります(最高裁昭和53年4月20日判決)。従って、韓国法が準拠法となります。
それでは、韓国の裁判所ではどのように扱われるのでしょうか。韓国では国際的な私法関係を規律する法律は「国際私法」と言います。同法23条に債権に対する約定担保権の準拠法について規定されており、その準拠法は担保の対象である権利の準拠法によることとされています。本件定期預金債権の準拠法は韓国法ですから、定期預金債権の質権の準拠法は韓国法になるものと考えられます。
韓国の債権質の第三者対抗要件は韓国民法349条により、450条が準用され、同条2項により、「確定日字」のある証書による通知または承諾が必要となります。そして、韓国民法附則3条により、「確定日字」とは(韓国の)公証人または法院書記が付けるものとされております。従って、韓国法で言うところの「確定日字」とは日本法上の確定日付を含まないと解すべきです(ちなみに、日本法上の確定日付とは、民法施行法5条により公証人役場等で付したものなど5つの場合が規定されております)。
以上により、定期預金債権の質権の準拠法を日本法にせず、原則どおり韓国法にする場合には本件の確定日付(確定日字)は、韓国で付けるべきです。
③本件定期預金債権の質権の成立と効力については、①で述べたとおり韓国法が準拠法となります。契約書等の書類を何語で書くべきかについては、一般には準拠法の属する国の国語で書くのが便宜であるといえます。そのうえ、本件では第三者に対する対抗要件を具備する手続も取る必要があります。従って、韓国語で作成するのが良いと考えます。
④韓国語のままで構いません。
当銀行承諾書の内容については日本語に訳しておき、その訳文を持参して公証人役場に行けばそれに基づき日本語の原簿が作成された上、韓国語の承諾書原本に確定日付をもらえます。ただし、準拠法が韓国法のときは、日本で確定日付をとっても、③で述べたとおり第三者対抗要件を備えたことにはなりません。
(記述 弁護士髙初輔)